移行期医療とは
医療の進歩により小児期発症慢性疾患患者の多くが、思春期・成人期を迎えるようになりました。
これらの患者に対し、成人後も小児診療科だけで診続けることは、必ずしも最良の医療を提供出来ているとは言い切れません。“こども”から“大人”へと自立していく患者が、適切な医療を生涯に渡り受けられるように、小児診療科から成人診療科へとシームレスに繋げていくことが、医療者には求められています。
しかし2つの間には、医療分野の違いだけではなく、患者との関り方や社会制度の違いなど様々な違いがあります。
そこで必要となるのが、小児期医療と成人期医療を繋ぐ架け橋となる新しい医療の形「移行期医療(トランジション)」です。単なる転科(トランスファー)とは異なり、移行期医療を成功させるためには、患者・養育者に対する移行支援が必要です。
移行支援には、下図のように2つの支援の柱があります。
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A発達段階を考慮した自律・自立支援,患者・養育者の疾患理解のための支援
患者の自律・自立支援には、疾患に対する理解度を上げていく教育的支援と就学・就労、趣味といった生きがい・生き方支援があります。
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成人期医療への移行に向けた患者教育には3つのパターンがあります。
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主として小児診療科の主治医が患者・養育者に疾患説明や成人診療科の説明を行うパターン
患者・養育者に転科準備が出来ており、スムーズな転科が可能な場合です。患者・養育者への疾患や服薬等の説明は必要であり、どの程度転科準備が出来ているか把握することが大切です。
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看護外来などで、小児診療科の主治医と看護師等が連携し自立支援を行うパターン
複数診療科が関わる患者や成人診療科への転科準備が出来ていない場合です。
看護師等が介入し、時間をかけて患者・養育者に寄り添いながら転科への理解を深めていくことが大切です。 -
多職種が連携し、様々な方向からのアプローチを行う患者の自立支援を行うパターン
希少疾患や高度医療的ケアを要する転科困難例の場合です。確定診断がついた時から自立支援等の患者教育
を開始し、主治医・看護師だけでなく多職種によるサポートを行い、転科に向けた準備を行うことが大切です。
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Bシームレスな生涯管理に向けた医療支援,成人診療科との連携,トランスファーの支援
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- 患者の権利:患者の自己決定権を基本とする
- 身体の変化への対応する:年齢とともに変化する病態や合併症に対応できる医療の開発と「小児医療」から「成人医療」へのシームレスな診療
- 人格の成熟への対応:人格の成熟に対応した年齢相応のしくみ
- 医療体制:疾患・病態により異なる多様な対応:小児診療科と成人診療科の関係から①転科(トランスファー)、②併診、③小児診療科の継続の選択肢がある
2014年に「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」を小児科学会が発表しています。
どのような医療が患者にとって最良であるのか患者自身の自己決定権に基づき決定できるよう、診断がついた時から移行に向けた準備を開始し、将来的な見通しを持って養育者と方針を確認しながら、発達段階を考慮した自律・自立支援を行うことが、小児診療科から成人診療科へのシームレスな医療支援を行うためには大切であり、どの方法を選択することが患者・養育者にとって最良であるか話し合う必要があります。