医療:医療機関の取り組み

    1. 1沿革

      2012年に大阪母子医療センター内に「移行期医療を考える会」が発足し、20歳以上で小児期発症慢性疾患を有する患者の実態把握と移行に必要な支援の検討が始まりました。
      2014年からは、目的別に分かれ活動を行っています。1つは、成人病院との連携を模索し移行環境を整える活動で、20歳以上で小児期発症慢性疾患を有する患者の実態調査を続けています。さらに新生児から小児科への移行の検討や移行困難例の支援体制の検討を行っています。
      もう1つは、患者が病態や治療を理解し、自律的な行動がとれるようにする支援を目的に発足した、「ここからの会(“からだと一緒にこころも大人に”“ここから始める移行支援”の意)」の活動です。
      2015年からは、厚生労働省のモデル事業に参加し、移行期医療支援を円滑かつ効率的に実施するため「移行期医療支援委員会」を立ち上げ、移行期外来を開設し、移行支援のためのモデル的活動を開始しました。これらの活動を基に、大阪府から委託を受け、2019年4月に移行期医療支援センターが設置されました。これを受け、移行期医療支援センターの実働活動を担っています。  

    2. 2移行支援

      当センターでは、医師・看護師・心理士・MSW等が職種の垣根をこえて同じチームとして、それぞれの専門性を活かし、移行支援に取り組んでいます。
      移行支援には、下図が示すように大きな2つの柱があります。

      図:移行期医療における移行支援

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    A発達段階を考慮した段階的に十分時間をかけた患者・養育者の疾患理解の支援と自律・自立支援 

    1)ここからの会の活動

    ここからの会は、主として外来・病棟の看護師と心理士で2014年から活動をしており、母子医療センター移行期医療支援委員会の小委員会としての役目も担っています。
    活動内容としては、

    1. ①多職種が協働して子どもの疾患と成長に合わせた移行支援シートの作成と活用方法の検討
    2. ②子どもの病識の理解を深める支援として、移行支援看護外来(一般移行期外来)を開設
    3. ③小学生以上を対象に、体や心について興味と関心を持ってもらえるようなセミナーを開催しています。

    また、事例をもとに、支援方法の検討や、院内向けの勉強会の企画等も行っています。

    (1) 移行期支援シートの活用「子どもの療養行動における自立のめやす」

    移行支援には、以下の6つの領域のプログラムがあります。

    1. Ⅰ 自分の健康状態を説明する
    2. Ⅱ 自ら受診して健康状況について述べる、服薬を管理する
    3. Ⅲ 妊娠の影響や避妊の方法も含めた性的問題の管理をする
    4. Ⅳ さまざまな不安や危惧を周囲に伝えサポートを求める
    5. Ⅴ 自分の身体状況に合った就業形態の検討をする
    6. Ⅵ 生活上の制限や趣味の持ち方の工夫を行う

    「ここからの会」では、小児看護学会の「慢性疾患患者における支援のあり方」についてのシートを基に、移行支援シート「子どもの療養行動における自立のめやす」を作成しました。
    このシートは、子どもが発達段階に応じて病気を理解し、養育者主体に行っていた療養行動の管理を、子ども自身にバトンタッチしていくために必要な目標を示しています。
    現在、外来・病棟で療育行動の気になる患者などを対象に試験運用を重ね、運用方法を検討しています。

    移行支援シート「子どもの療育行動における自立のめやす」PDF

    (2) からだを知ろうセミナー

    2016年~毎年春休みや夏休みに、子どもたちを対象に各診療科の先生が、からだの仕組みや働きについての勉強会を開いており、クイズを取り入れ参加する子どもの興味・関心を引くように工夫をしています。

    今まで、9つのテーマで開催しています。
    1. 1「息をすること 食べること」
    2. 2「おはだのこと きずのてあて」
    3. 3「元気いっぱいにすごすコツ」
    4. 4「脳の不思議」
    5. 5「からだをつくる栄養のお話」
    1. 6「どうやってのんでる くすりのおはなし」
    2. 7「こころとからだの元気モリモリ大作戦」
    3. 8「おなかの中の赤ちゃんのおはなし」
    4. 9「アレルギーってなんだろう」

    大阪母子医療センターについてはこちらをご覧ください。

    (3)スタッフへの啓発活動

    院内スタッフを対象に、移行支援に関する勉強会を年1回開催しています。
    内容は、移行期医療を取り巻く現状や課題、子どものこころの発達、ここからの会で作成した「療養行動における自立のめやす」の紹介など、多岐にわたっています。また、参加者が移行支援を身近に感じ、「取り組んでみよう」と思えるように、各病棟や外来での支援の実際についても紹介しています。

    2) 移行期外来

    (1) 一般移行期外来

    一般移行期外来は、患者が自分の病態や治療を理解し、自律的な行動がとれるように医師、看護師、助産師、コメディカルが連携して患者や家族を支援することを目的とした看護外来です。看護外来には、時期に応じて2つの看護外来枠を設けています。

    「1/2成人式外来」

    10歳前後を対象とし、“ここからチェック”を実施し、病識等のアセスメントを行います。
    出生から今の成長した過程を振り返り、様々な困難を乗り越えてきた子どもに、「生まれてきてくれてありがとう」と伝えられるような機会とし、子どもの病識を確認し、医師から病気や病態を説明しています。

    「ここからステップ外来」

    12歳、15歳、18歳前後の社会生活の節目の時期に子どもの病気についての理解度の確認・検査値の
    見方・内服薬の説明・学校などでの生活状況の確認・性教育など行い、継続的にフォローするため
    の支援を行っています。

    (2) 専門移行期外来

    現在DSD(性分化疾患)外来、ここからステップ外来(先天性心疾患)、Cloaca(総排泄腔遺残症・外反症)外来が活動しています。

    「DSD外来」

    DSDは自己アイデンティティの根幹にかかわる“性別”が関与する疾患であり、病名病態告知の困難な事例も多く、患者・養育者の思いを聞き、患者に寄り添う医療を心がけ、full disclosure(情報の全面開示)を基本に考えています。

    「ここからステップ外来(先天性心疾患)」

    複雑な先天性心疾患の多くは、成人になっても継続的な経過観察や治療が必要です。そのため、患者本人が病気を理解して自己管理を行い、成人向けの診療体制へ移行できるように支援していくことが必要です。
    そこで、ここからステップ外来では医師・看護師が中心となって患者・家族の病気に対する思いや理解度を把握し、患者本人への病気説明を行っています。
    また、家族とは別に患者本人だけで診察室に入る経験をしてもらうなど、患者の自立や移行の準備を支援しています。外来の前後には、医師・看護師でカンファレンスを行い情報共有や振り返りを行い、その後の支援に繋げています。

    「Cloaca外来」

    ストーマ外来として今まで外科系診療を中心に皮膚・排泄ケア認定看護師などとともに患者と家族のサポートをしてきましたが、総排泄腔遺残症・外反症の自立支援の視点を強化した多職種での臨床管理のために移行期外来としてスタートさせました。

    これらの外来受診前にはVinelandⅡ適応行動尺度※1QOL尺度※2TRAQ3※等のアセスメントツールを適宜使用し、患者の特性を理解した後、外来前に医師・看護師・助産師・心理士等が参加する事前カンファレンスを行います。外来では医師の疾患病態説明の前後に、患者と養育者それぞれに分かれて看護師・助産師が面接し疾患の理解度を確認、気持ちに寄り添って補足説明をしています。

    指標の概略

    ※1 VinelandⅡ適応行動尺度
    VinelandⅡの「適応行動」とは、「個人的、また、社会的充足に必要な日常活動の能力」と定義されていますが、“能力”そのものではなく、その行動の”遂行“によって評定されます。つまり、たとえ知識や潜在的な能力として獲得されていても、必要な時にその能力を発揮できなければ、適応行動としては不十分と評価されます。
    この尺度は、0~92歳と幅広い年齢の対象者に適応できます。回答するのは、適応行動の評価対象本人ではなく、本人の日常を熟知する成人、つまり、親やその他の養育者です。
    評価する領域は、コミュニケーション領域、日常生活スキル、社会性領域、運動スキル領域の4つで、それぞれに、2~3の下位尺度があります。また、不適応行動の尺度として、内在化問題、外在化問題、重度の不適応行動の項目も用意されています。
    ※2 QOL尺度
    • WHOQOL26(18歳以上)

      本人の主観的な幸福感や生活の質を測ります。身体的領域、心理的領域、社会的関係、環境領域の4領域のQOLを問う24項目と、QOL全体を問う2項目の、全26の質問項目があります。

    • 小学生・中学生版QOL尺度

      子どものQOLを包括的に測定します。身体的健康、精神的健康、自尊感情、家族、友達、学校生活の6つの領域で構成されています。子ども本人が、5段階で回答します。
      小学生・中学生版QOL尺度には、親用もあります。親からみた子どものQOLを測定します。子どものQOL尺度と同じ内容で、親からみた子どもの状態を6領域24の質問項目を、5段階で評定していただきます。

    ※3 移行準備状況評価アンケート(TRAQ)
    小児期発症慢性疾患を持つ思春期以降の患者が、「薬を管理する」「予約を管理する」「経過を観察する」「医療者と話す」の4領域23項目に対し、5段階方式で自己記入し評価するアセスメントツールです。
    回答の合計が高得点であるほど、疾患の自己管理や自立した受診行動ができると評価でき、移行準備状況が出来ていると評価できます。」
      京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学. 移行準備状況評価アンケート(TRAQ)日本語版について. http://hi.med.kyoto-u.ac.jp/TRAQ.html

    Bシームレスな生涯管理に向けた医療支援 成人診療科との連携、トランスファーの支援

    1) 成人診療科との合同カンファレンス

    患者対応や病態など情報共有が必要な患者を成人診療科へ移行する際、病院間合同カンファレンスなどを行う予定です。

    2) 地域連携システム

    2018年3月より、地域連携システム「南大阪MOCOネット」を運用し、現在44医療機関(2020年1月現在)に利用していただいています。このシステムは、患者・養育者の許可を得た人のみ当センターのカルテが、他の医療機関でも閲覧できるシステムです。
    現在、一方的な提供になっている為、今後カルテの相互閲覧を可能にし、合同カンファレンスやコンサルティングが出来るようにしたいと考えております。
    小児診療科と成人診療科が、お互いに顔の見える連携体制を取ることにとって、患者・養育者の安心にもつながり、小児診療科から成人診療科へのシームレスな医療提供ができるようになります。

    図:地域連携システム「南大阪MOCOネット」

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  • 小児循環器内科 成人先天性心疾患外来のご案内

    はじめに

    先天性心疾患は、小児期治療の向上に伴い、多くの患者さんが成人を迎えることができるようになりました。我が国にはすでに50万人以上の成人患者様がおられます。しかし先天性心疾患の患者さんは、成人後も病気の進行や加齢の影響を受け、小児期とは異なる後期合併症や続発症を伴うことが少なくありません。先天性心疾患患者さんには、小児期から成人期にいたるまでの継続的な「生涯医療」が不可欠です。

    国立循環器病研究センターでも成人に達する先天性心疾患の患者さんが次第に増加し、2007年には小児循環器内科入院の約25%が20歳以上(このうち約5%は40歳以上)になり、以後も同様の割合が続いています。また小児循環器内科外来では約50%の患者さんが成人になっています。

    図1 小児循環器内科入院の年齢階層変化、図2 小児循環器内科外来の受診者年齢

    国立循環器病研究センターでは成人先天性心疾患患者さんの診療体制を再構築し、「成人先天性心疾患外来」を新設しました。小児循環器内科、成人循環器内科、小児/成人心臓外科、産婦人科などが結集して、より良い成人先天性心疾患診療を目指しています。

    成人を迎えられた患者様は主治医と相談して、成人先天性心疾患外来を受診されることをお勧めします。

    黒嵜 健一

    小児循環器内科 部長
    黒嵜 健一Kenichi Kurosaki

    〈専門領域〉小児循環器、小児循環器集中治療、3次元画像診断、胎児心臓病
    〈専門医資格〉小児科専門医、小児循環器専門医

    成人先天性心疾患の治療を推進するスペシャリストのご紹介

    • 大内 秀雄

      小児循環器内科医長、成人先天性心疾患科医長
      大内 秀雄Hideo Ouchi

      当院での小児循環器内科レジデントおよび専門修練医を経て1992年より当院スタッフとして勤務、2003年より2年間の米国メイヨークリニック留学後2012年より現職に就任。主に当院の成人先天性心疾患患者の診療を担当し、より重症な患者、特にフォンタン循環の患者など心不全患者管理や女性患者の妊娠・出産の管理に周産期部門と連携しながら診療にあたっている。

      〈専門領域〉小児循環器、成人先天性心疾患、心不全
      〈専門医資格〉日本小児科専門医・指導医、日本小児循環器専門医、日本成人先天性心疾患専門医

    • 大郷 剛

      肺高血圧先端医学研究部長、肺循環科医長
      大郷 剛Takeshi Ogou

      平成8年香川医大卒業。平成16年より国立循環器病研究センターにて循環器研修。平成21年より英国キングスカレッジ留学を経て平成27年より現職。肺循環疾患、成人先天性心疾患を専門とし、特に肺高血圧症では、世界に先駆けた治療を発信している。

      〈専門領域〉肺高血圧症、成人先天性心疾患、その他の肺循環疾患
      〈専門医資格〉日本循環器病学会専門医、日本内科学会 総合内科専門医

    • 塚本 泰正

      移植医療部長
      塚本 泰正Yasumasa Tsukamoto

      大阪大学/りんくう総合医療センター小児科、大阪急性期総合医療センター心臓内科、大阪大学循環器内科を経て2022年より現職。元小児科医の経験も活かし、前職より軽症~複雑な病態まで幅広く成人先天性心疾患患者の移行を含めた診療に取り組んできた。重症心不全・心臓移植医療にも従事しており、重症症例への対応も行っている。

      〈専門領域〉成人先天性心疾患、重症心不全・補助人工心臓・心臓移植
      〈専門医資格〉日本循環器学会 循環器専門医、日本成人先天性心疾患学会 暫定専門医、日本小児科学会 小児科専門医、日本移植学会 移植認定医、日本内科学会 認定内科医

    • 森 有希

      小児循環器内科部
      森 有希Aki Mori

      救急総合科診療を経て、2014年より国立循環器病研究センター心臓血管内科で研修。2018年より高次脳機能障害の診療に従事した後、2020年より国立循環器病研究センター小児循環器内科(成人先天性心疾患部門)で現職。現在は成人先天性心疾患(ACHD)の診療に携わっている。

      〈専門領域〉循環器内科、成人先天性心疾患
      〈専門医資格〉救急科専門医、日本循環器学会 循環器内科専門医、日本内科学会 認定内科医

    • 浅野 遼太郎

      心臓血管内科部肺循環科 非常勤医師
      浅野 遼太郎Ryotaro Asano

      国循専門修練医を経て2022年より現職。
      難病の克服を目指し、日々研究所と病院を走り回っています。

      〈専門領域〉成人先天性心疾患、肺高血圧症
      〈専門医資格〉成人先天性心疾患学会暫定専門医、ASD・PFO閉鎖栓実施医、循環器専門医、CVIT認定医

    (出典:国立循環器病研究センター)

  • 関西医科大学小児科における移行医療の取り組み

    関西医科大学小児科学講座
    木全貴久 石崎優子 金子一成

    小児期発症の慢性疾患の患者のうち、思春期から成人期を迎えた患者およびその保護者に対する成人診療科へのシームレスな診療の引き継ぎ、いわゆる移行医療の実践においては、患者と保護者には小児科と成人科の診療の考え方の違いを教えること、引き継ぐ側の成人科の医師が小児期発症慢性疾患への理解を深めることが重要である。

    関西医科大学小児科でも患者が成人する前に、小児科の担当医が移行先の成人科の医師に個別に相談していたが、スムーズな移行は困難であった。その理由は、成人科の医師にとって、小児期発症の疾患を扱うことに対する苦手意識であった。そこで2017年から小児科が主体となり関西医科大学病院全体で移行をすすめるシステムを開始した。

    具体的には、

    1. 関西医科大学附属病院と関西医科大学総合医療センターの両病院においては、小児科に受診中の15歳以上の患者について、小児科から関連する成人科への診療移行をすすめて行くことについて病院長を含め、成人科診療部長から承認を得る。
    2. 移行先の成人科のカンファレンスで診療を引き継ぐ患者の情報を周知してもらい、各成人科の移行担当医(主に外来医長)を決定する。
    3. 小児科の主治医は、遅くとも15歳までに移行について患者・保護者に説明を開始する。
    4. 移行年齢(15歳)に達するおおよその患者数を把握した上で、事前に成人科の移行担当医に相談し、移行する順序を決定する。
    5. 小児科主治医は移行準備が整った患者のサマリーを作成し、成人科の移行担当医に送付する。
    6. 成人科移行担当医は、移行患者の外来担当医を決定し、不明点を小児科主治医に確認(必要があればカンファレンスを開催)する。
    7. 同時に看護サマリーを作成し、看護師間の申し送りを行う。
    8. 移行当初は、小児科と併診する(治療や処方は成人科で行う)。
    9. その後、完全移行(目標は20歳までに完了)する。

    という手順で進めた。

    開始から1年後の評価では、このような方法で精神運動発達遅滞の合併のない患者はスムーズな移行が可能となっていたが、精神運動発達遅滞を合併する患者は移行が困難であり、成人科での治療を開始しても小児科との併診が必要となっていた。また複数の疾患を併せ持つ患者では小児科のように総合診療科的な対応は難しかった。さらに症状はないものの小児科で1年に1回の定期診察を行っているような症例については、成人科で医療の必要性を疑問視されることもあった。それでもなお、ゆっくりではあるが移行医療の歩みを進めている。

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